
人材不足や製造工程の多様化など、製造業が抱える課題は多種多様です。これらの課題を解決するための有効な手段として、工場の自動化を実現するファクトリーオートメーションが大きな注目を集めています。本記事では、ファクトリーオートメーションの概要やメリット・デメリットなどについて詳しく解説します。
ファクトリーオートメーション(FA)とは?
ファクトリーオートメーション(以下、FA)は、工場の生産工程を自動化するシステムのことです。デジタル機器やロボットを活用して、従来は人間が行っていた作業を効率的に自動化します。もともと1950年代から提唱され始めた取り組みですが、近年は機器の進化によって制御の精度が飛躍的に向上し、さまざまな場面で活用されるようになりました。例えば、ロボットによる部品の組み立て、センサーを用いた不良品検査、搬送機による資材の運搬などです。
ファクトリーオートメーションの範囲
FAは、主に製造に関連する以下の分野を対象としています。
- 加工:ロボットによる部品の加工や成形作業
- 組立:自動化された機械による製品の組み立て
- マテハン(運搬):ベルトコンベアなどによる製品や部品の移動
- 生産管理:生産ラインの流れや工程の管理
- 品質管理:画像検査システムなどによる製品の品質チェック
- 安全管理:問題発生時の自動停止システムなど
FAは品質管理、安全管理などを含む製造関連全般をカバーし、単純作業の自動化から高度な制御まで幅広い範囲にわたります。
ファクトリーオートメーションの目的
FAの主な目的は、以下の通りです。
- 生産工程の自動化による生産スピードの向上
- 省人化・省力化による効率的な生産体制の構築
- 品質の安定化と不良品の発生防止
- データ連携やITシステムとの組み合わせによる多品種少量生産への対応
これらは、企業の競争力を強化するとともに、従業員の労働環境を改善するうえで重要です。また、FAは単に現在の環境を改善するだけでなく、市場の変化や技術革新に対応し、柔軟かつ持続可能な生産体制を実現することも目指しています。安全性やコスト削減といった具体的なメリットについては後述します。
ファクトリーオートメーションが注目される理由
FAが日本で注目されている理由としてまず挙げられるのは、労働力不足への対応です。日本では少子高齢化が進行し、労働人口の減少が深刻な問題となっています。また、ものづくり白書によると、製造業において2002年に384万人だった若年就業者(34歳以下)は2023年には259万人にまで減少しています。一方で、高齢就業者(65歳以上)は2002年の58万人から2023年には88万人にまで増加しており、技術継承の課題も深刻です。
参照元:2024年版 ものづくり白書|厚生労働省 5ページ
このような人手不足と技術継承の課題に対応するためにFAが注目されています。FAによって省人化・無人化するとともに、AIやデジタルツインを活用して熟練工のノウハウをデータ化・自動化することで、生産を効率的に維持しながら品質の安定化も図ることができます。
グローバル競争の激化も注目される理由です。国際市場での競争が激化する中、製造業では量よりも質が求められるようになってきました。そのため、高品質かつ低コストの製品を効率的に生産することが必要不可欠です。さらに、海外での人件費上昇により、従来の海外生産によるコストメリットが減少しています。国内での生産効率化が強く求められており、FAが注目を集めています。
スマートファクトリーや製造業DXとの違い
FAと混同しやすい言葉に、スマートファクトリーや製造業DXがあります。FAとどのような違いがあるのか、それぞれ詳しく解説します。
ファクトリーオートメーションとスマートファクトリーの違い
FAとスマートファクトリーでは目的と範囲が異なります。FAは生産工程の自動化を目指し、スマートファクトリーはIoTやAIを活用して工場全体の効率向上や柔軟な生産体制を実現します。FAではロボットやセンサー、ITシステムなどを活用して生産工程を自動化します。一方、スマートファクトリーは、これらの技術に加えてIoTやAI、ビッグデータ解析などの先端技術を活用し、デジタルデータに基づいて工場全体の最適化を図ります。
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ファクトリーオートメーションと製造業DXの違い
FAと製造業DXの違いも、その目的と範囲にあります。FAは主に工場内の生産工程の自動化を目的とし、ロボットや機械を用いて作業を省人化・効率化します。一方、製造業DXは、デジタル技術によって製造プロセスだけでなく、ビジネスモデルや組織全体に変革をもたらす点でFAとは異なります。
アプローチも異なります。FAの目的はロボットやセンサーなどを導入して人間の作業を機械に置き換え、生産性向上を図ることであるため、主に自動化技術やロボット工学を活用します。一方、製造業DXはデジタル技術やデータを活用して業務プロセスの変革や新しい価値の創造を目指す取り組みです。そのため、IoT、AI、ビッグデータ分析など、より幅広いデジタル技術を活用します。
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ファクトリーオートメーションのメリット
FAの導入は、コスト削減や労働力の最適化、品質管理の向上といったメリットをもたらします。
人件費を削減できる
製造業では従来、多くの工程で人の手作業が必要とされ、人件費が大きなコスト要因となっていました。そのため、コスト削減策の一環として海外生産が進められてきましたが、近年では新興国でも人件費が高騰しています。そこで有効なのがFAです。FAによる作業の自動化は、省人化と省力化につながります。同じ生産量を維持しながら必要な人員を削減できるだけでなく、浮いた人員をほかの付加価値の高い業務にシフトすることも可能です。
労働環境が改善できる
定型業務や人間が処理していた作業を自動化すれば、少ない人数でも安定した生産が可能です。これにより、直接的な人手不足の解消が期待できます。また、危険を伴う作業や負担の大きい工程をシステムや協働ロボットで代替すれば、作業員の身体的・心理的な負担が軽減され、安全で働きやすい環境が整います。労働環境の改善は、従業員の満足度や定着率の向上につながり、人材流出を防ぎます。さらに安全性や快適な作業環境を強くアピールすることで、採用活動にもプラスに働きます。労働力不足が深刻化する中、FAは単に人員削減の手段ではなく、優秀な人材の確保や職場の魅力向上にも貢献する重要な取り組みです。
品質の安定や向上につながる
人間の作業には、ミスや不注意による不良品の発生がつきものです。一方、ロボットや機械は精密な動作を繰り返すことができ、人間よりも高い精度で安定した作業を実現します。これにより、不良品の発生を抑え、製品の品質を一定の水準で維持できます。作業内容によっては、人間の手作業よりもロボットや機械のほうが品質を一貫して高い水準で維持するのに効果的です。加えて、FAシステムは人間とは違い、24時間365日、一定の作業効率で稼働可能です。そのため、常に均一な品質の製品を生産でき、安定的な稼働が見込めます。
ファクトリーオートメーションの導入課題
FAの導入にはメリットが多い一方で、乗り越えるべき課題もあります。特に、高額な初期投資の負担、従業員の心理的な不安、デジタル人材の確保が大きな課題です。
高額な初期投資が必要になる
FAを導入するためには、産業用ロボットや制御システムなどの設備を導入しなければなりません。これらの費用は数十万円から数百万円にのぼり、工場全体を自動化する場合にはさらに高額になります。ロボット単体ではなく、コンベヤやセンサーといった生産ライン全体を最適化するために必要な付帯設備や安全対策の設計にも多額の費用がかかります。加えて、導入後も定期的なメンテナンス費用が発生し、機器の保守やアップグレードには継続的な投資が必要です。
こうした初期投資や運用コストを負担に感じる企業も多いため、補助金制度の活用や段階的な導入計画など、投資コストの抑制についてもしっかり検討することが大切です。
従業員が「自分の役割がなくなるのではないか」と不安を覚える
FAの導入によって多くの製造工程が自動化されると、従業員の中には「製造に関する多くの職種がなくなってしまうのでは?」という懸念が生まれます。この不安は、雇用の減少や自身の仕事の将来性に対する不安につながるため、放置できません。
しかし実際には、FAは人間とロボットの協働を目指すものであり、人間の仕事を奪うものではありません。特に、近年注目されている「協働ロボット」は、従来の産業用ロボットとは異なり、人と協力しながら働く人間協調型のロボットです。人間とロボットで作業を分担し、それぞれの得意分野を活かすことに着目しています。
企業側は、従業員の不安を和らげるために、以下の対策を講じることが重要です。
- FAの導入目的や協働の概念について、従業員に十分な説明を行う。
- 専門知識を身につけるための研修や教育制度を整備し、従業員のスキルアップを支援する。
- 協働ロボットの導入によって従業員の役割がどのように変化し、新たな付加価値を生み出せるかを具体的に示す。
デジタル人材が必要になる
FAの導入には、デジタル機器やシステムを扱える人材が不可欠です。これらの人材は、システムの設計や導入、運用、保守などの役割を担い、FAの円滑な運用に貢献します。しかし、日本全体で人手不足が深刻化する中、製造業においてもデジタル人材の確保が容易ではありません。
また、既存の従業員をデジタル人材として育成する場合にも、時間と費用が必要です。技術研修の実施だけでなく、実務を通じたスキル習得や学習環境の整備が求められます。さらに、デジタル人材への投資は一度きりではなく、技術の進化に応じた継続的な教育やスキルアップが必要です。
これらの課題に対応するためには、自社の状況にあわせた最適な方法でデジタル人材の確保と育成に取り組む必要があります。
ファクトリーオートメーションの導入ステップ
FAの導入は以下のステップで行います。
- 現状の把握と課題の洗い出し
- 導入目的の明確化
- ファクトリーオートメーション化する業務の決定
- ファクトリーオートメーションを進めるための手段の検討
- 試験運用を実施してから本格導入
1. 現状の把握と課題の洗い出し
FAを導入する前に、まず工場の現在の状況を正確に把握する必要があります。これにより、どの業務を自動化すべきか、どのような課題があるのかを明確にできます。
現状把握すべきポイントとしては以下が含まれます。
- 各生産ラインの作業内容と所要時間の確認
- 現在の生産性、品質、安全性などの指標の確認
- 人員配置と作業負荷の分析
現状把握のためには、具体的なデータの収集が欠かせません。例えば生産ラインや設備の稼働状況を把握するために、各種センサーやモニタリングツールを活用する方法があります。収集したデータは、社内システムやクラウドなどを用いて蓄積・管理します。
次に、収集したデータを加工・整理し、見える化しましょう。例えば、各ラインや工場全体の生産情報を統合してダッシュボードやグラフを作成し、現場作業者も理解しやすい形で提示する方法などがあります。
収集・加工・整理したデータを分析すると、以下のような課題が特定できます。
- 生産性が低い工程
- 品質問題が発生しやすい箇所
- 安全性に問題がある作業
- 人為的ミスが多発する工程
これらの課題は、FAの導入課題とも深く関連しています。例えば生産性が低い工程や品質問題が頻発する箇所ではFAによる自動化が特に効果的ですが、FA導入には高額な初期投資がともなうため、どの工程に優先的に導入すべきかを見極める必要があります。ここで費用対効果を十分に考慮することが、投資の最適化につながります。
こうした課題分析を基に、FAによって改善可能なプロセスを洗い出します。
2.導入目的の明確化
次に、効果的な導入計画を立案しましょう。そのために必要なのは、明確な目的の設定です。それにより、FAの導入がどのような課題を解決し、どのような効果をもたらすかを具体化できます。また、適切な技術や設備の選択にも役立ちます。品質の向上や生産性向上、人手不足解消など、自社の経営方針とあわせた目的を設定しましょう。
目的の明確化は、従業員の理解と協力を得るうえでも重要です。従業員がFA導入の目的を理解し、どのような効果が期待できるのかを共有することで、導入プロセスへの積極的な参加を促すことができます。
3. ファクトリーオートメーション化する業務の決定
目的を明確化したら、実際にFA化する業務を決定しましょう。その際に重要なポイントは、企業の目的に直結する業務であることです。
また、以下のような観点から評価することも大切です。
- 作業が定型的で繰り返しが多いか
- 自動化によって効率や品質が向上するか
- 十分な投資対効果が見込めるか
例えば、ある企業では手作業で行っていた商品のビニール詰め工程をロボット化し、品質と生産性を向上させました。箱詰めなど生産ラインの下流工程をロボットに任せ、人員の配置転換を行ったことで、生産性が向上した企業もあります。
4.ファクトリーオートメーションを進めるための手段の検討
FAを進める手段には、AIの活用や協働ロボットの導入など、さまざまな選択肢があります。どの手段を採用するかは、自社のニーズや予算、導入の目的に応じて慎重に検討する必要があります。例えば、先述したビニール詰めやラインの下流工程といった生産ラインの一部を自動化する場合は、以下のような手段から自社にあわせた手段の選択が必要です。
- ロボットハンドや組立機といった専用ロボット
- AIを搭載した機器やシステム
- 製品を移動したり保管したりするための自動搬送システム
- 製品の品質検査や不良品の検出を自動化するための画像処理技術
- 生産データをリアルタイムで管理し、遠隔制御を実現する統合型クラウドサービス
また、導入可否を検討する際にはシミュレーションを行い、導入後の効果やリスクを評価することが重要です。導入による業務フローの変化や、人員配置への影響も含め、事前に検討しておく必要があります。
5.試験運用を実施してから本格導入
システムを本格稼働させる前に試験運用を行い、実際の生産ラインでの動作や性能を確認しましょう。これにより、設計段階では見えなかった問題点や改善点を洗い出せます。問題が生じた場合は必要に応じて前のステップに戻り、システムやプロセスを調整しましょう。また、試験運用の結果を基に、FA導入の目的が達成されているかどうかを評価します。そうすることで本格導入後のリスクを最小限に抑えられます。加えて、従業員が新しいシステムに慣れ、操作やトラブル対応を学ぶ時間も確保しましょう。
「協働ロボット」がファクトリーオートメーションを実現する
現代の製造業が直面する課題を解決する方法のひとつが、協働ロボット(コボット)の導入です。協働ロボットは従来のようなFAの実現手段とは異なり、人と協働したオートメーションを実現できます。協働ロボットには、以下のような特長があります。
- 人手不足解消と労働環境改善
協働ロボットは人間の作業者を危険や単調な作業から解放します。その結果、人間の作業者をより付加価値の高い業務に従事させることが可能です。 - 高い費用対効果
費用対効果の高さも協働ロボットの魅力です。シンプルなシステム構成により設計や工事の負担を抑え、短期間で立ち上げ可能なため、早期に自動化の効果を実現できます。 また、導入後もさまざまな作業に活用でき、長期的な投資効果があります。 - 高い柔軟性
未経験者でも扱いやすいユーザーインターフェースを備え、導入や調整が容易です。システム変更や作業内容の修正もスムーズに行え、設置場所の移動も柔軟に対応可能です。
製造業での協働ロボット導入事例
最後に、協働ロボットを実際に導入し、自社の課題を解決したケースを紹介します。
事例1. ロボットの導入で省人化を確立
三恵工業株式会社は、競争力強化のための生産性向上や、作業者の習熟度による品質のばらつきといった課題を抱えていました。課題解決のために従来の産業用ロボットを導入したものの、導入には専門知識が必要であり、安全柵の必要なロボットはスペースの限られた工程には導入できないといった課題に直面しました。
そこで導入したのが、自社でプログラミングが完結し、安全面にも配慮されたユニバーサルロボット(UR)の協働ロボットです。この導入により、人による作業の削減で省人化を確立し、作業時間の一定化と品質の安定化も実現しました。同社は安全対策を徹底することで人とロボットが協調して作業できる環境を構築し、さらなる自動化を目指しています。
関連記事:協働ロボットの導入で組立ラインの省人化を図る
事例2. TIG溶接工程に協働ロボットを導入して自動化
株式会社タカノは、労働人口減少による溶接作業者の不足や、専門性をもたない従業員の働くハードルを下げる標準化・平準化の推進といった課題を抱えていました。熟練作業者がより付加価値の高い仕事ができる環境作りも必要でした。
その解決策となったのが、URロボットの導入です。導入の結果、作業者の手作業だと2日かかっていた溶接作業が1日で完了するようになりました。また、熟練作業者のキャパシティにも余裕が生まれ、ロボットには難しい作業を行うことで増産にも対応できました。
協働ロボットの導入によって溶接工程の生産性が大幅に向上したことから、同社では今後も板金溶接や検査といったさまざまな工程への導入を検討しています。
関連記事:URロボット導入による溶接工程の生産性向上
事例3. 労働環境を改善し生産レベルを強化
電気工具メーカーのルペス社が抱えていたのは、従業員の労働環境改善という課題です。同社の作業はつらい反復作業が多く、従業員の負担が大きい状況にありました。そこで同社が決断したのが、URの協働ロボットを生産ラインに導入することです。反復作業をロボットに担当させ、従業員がよりやりがいのある仕事に集中できる環境を構築しました。従業員の安全確保のため、ロボットの安全機能をカスタマイズしたことも重要なポイントです。
こうした取り組みの結果、同社では従業員の労働環境が改善されただけでなく、製品の品質維持と生産性の向上も実現しました。同社ではURロボットの柔軟性も活かし、今後もさまざまな工程に適合させることで、より効率的でスマートな生産体制の構築を目指しています。
関連記事:協働ロボットの導入により労働環境が改善し、生産性の向上
まとめ
ファクトリーオートメーション(FA)は、工場の生産工程を自動化するシステムです。生産性向上や省人化などを目的としています。工場全体の最適化を目指すスマートファクトリーや、新たな価値の創造を目指す製造業DXと違い、個々の工程の自動化に焦点を当てているのが特徴です。FAのメリットは、人件費削減や労働力不足解消、品質の安定・向上などです。一方、課題としては高額な初期投資、従業員の不安、デジタル人材の必要性が挙げられます。この解決策として、従業員と協業できる協働ロボットの活用が有効です。