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オートメーション業界で最も名誉ある賞「エンゲルバーガー・ロボティクス賞」を受賞したUniversal Robots 共同創業者・CTOのエスベン・オスターガ―ド。しかしそれも彼にとっては自身の影響力を再認識するひとつのよすがにすぎません。それもそのはず、エスベンは実際の作業現場で起きた課題を解決するため、4歳にして最初のロボットを発明していたのです。
幼い頃からロボットのパイオニア
エスベンは父親の仕事の関係で、フィリピンのセブ島に住んでいました。エンジニアの父親はセブ島で給水設備を建設していたのですが、ある時、現場の作業員がパイプにケーブルを通すため、猫のしっぽにひもを結びつけパイプをくぐらせようとしていました。しかし、猫は協力的でも大人しくもない動物で、これはあまり優れた計画ではありませんでした。そこでエスベンが、この作業を代行する小さなロボットをつくったことが、彼の運命を決定づけることになりました。
フィリピンの誕生日パーティでのエスベン(緑の服の子供)。ロボット第1号を発明した頃
エスベンはデンマークのオーフス大学でコンピュータ科学、物理、マルチメディアの学位を取得した後、南デンマーク大学でロボティクスの博士号を取得しました。また南カリフォルニア大学(USC)ロボティクス研究所や、日本の産業技術総合研究所(AIST: 筑波、東京)でも研究員として勤務。その経験が彼のオートメーションに対するグローバルな視野を形作りました。
2000年、USCで複数の”Pioneer”ロボットを使い作業するエスベン。ロボット同士を調整中
2004年、オーデンセの南デンマーク大学Maersk Instituteにて。エスベンの博士研究プロジェクトはATRONシステム(自己再構成モジュールロボット)について人工知能と生体模倣ロボット工学に関連させ、変形する自己再構成ロボットの構築と制御について研究した
ピザから得た着想
世界には、柔軟でプログラムが容易なロボットが必要だとエスベンが考えるようになったのは2003年、南デンマーク大学で学んでいたときのこと。
当時、彼は食品産業でのオートメーションに関わる研究プロジェクトを進めていました。しかし、ピザにサラミをのせるといった単純な作業にさえ、自動化にはトラックで運ぶような巨大なシステムが必要なうえプログラミングが難しく、実現するにはあまりに多額の費用を要しました。
2005年10月、彼は事業規模や技術水準に関わらず活用できるロボット技術を開発したいという思いでUniversal Robotsを共同設立しました。2007年にはアームの試作品第1号のテストを実施し、2008年12月、初めてロボットアームが設置されました。これが世界初の、防護柵なしで安全に使える商業用ロボットです。
2008年、商業的に実用可能なコボットが世界で初めて開発された
従来の自動化からの抜本的な脱却
2008年に製品を発売したものの、「人とロボットの協働」という考えに馴染みのない市場の中で財政的危機が襲いかかります。しかし、エスベンと彼のチームは、安全に協働できるだけでなく、軽くて使い方も簡単で柔軟性のあるロボットを産業界に送りだし、これを克服してゆきました。
それは従来の固定式のオートメーションからの、抜本的で勇気ある脱却でした。そしてそれは、これまではあまりにコストが高く複雑だったロボットを、中小企業が導入する弾みとなりました。
コボットにとって安全性は業界への「参加費用」にすぎない
エスベンは、ロボットが人間とぶつかった際には自動的に動作を停止し怪我を防ぐよう、URロボットの力制御・安全制御機能を開発しました。このような機能により、URロボットが設置された現場の大半では安全防護設備が不要です。こうしてURは協働ロボット分野の第一人者としての地位を確立するに至りました。
URロボットの大半はこの写真(米ボストン、Tegra Medical)のように防護柵なしで使われている
エスベンによれば、安全性はコボット市場に参入するための「参加費用」にすぎない、すなわち備わっていて当然のものだといいます。彼は、「協働」という言葉の真の意味を追求し、常により高い目標を掲げて、協働ロボットの先駆者であるUniversal Robotsを一層発展させようとしています。
彼の見方では、「協働」とは人間が直接ロボットと作業できることに止まらず、使い方も導入も簡単ということを意味します。突き詰めれば、手頃な価格で使いやすくないかぎり「協働」ロボットとは呼べません。
エスベンの率いる開発チームは世界で初めて、タブレットを使ったインターフェイスで直感的に操作できる、ユーザーフレンドリーでありながら先進的な3Dロボットプログラミングを開発しました。これによりユーザーはプログラミングの経験がなくても迅速にURロボットの設定を行い、利用できるようになりました。
このアプローチのおかげで、工場の自動化の主導権が作業員の手に戻りました。エスベンは、協働ロボットが非熟練労働者を助けることで、工場の作業現場に知見を呼び戻すことを主張しました。長期的な視野に立つと、協働ロボット活用の最大の成果はここにあると言えるでしょう。
電子・エンタテインメント製品のグローバルリーダーであるJVCケンウッドのインドネシア工場にて。従業員のすぐ隣でUR3コボット7台がネジ止め、はんだ付け、ピック&プレースといった作業を行う
第5次産業革命
産業革命のきっかけとなった進歩はとてつもない富を生み出しましたが、同時に製品に対する思いや知識を、作り手から奪い去ってしまいました。
エスベンは第5次産業革命に向けたオピニオンリーダーとして多くの講演も行っています。人と機械が作業現場で協力しあい、今後人間と機械は対峙するのではなく、協調していくというのが、エスベンの描く第5次産業革命の筋書きです。それは単に生産水準を高めるだけではなく、付加価値を伴う大きな可能性を秘めているのです。
エスベンによると、ロボットの持つ再現性を利用しながら、人間の創造性を別のところで活用すれば、市場の進化や、高度に差別化された製品を求める声にも応えられるといいます。それにより製品にもその作り手にも、質的な変化がもたらされるでしょう。
ロボットとその未来にかけるたゆまぬ情熱
4歳の子どもが作った素朴な「ひも引きロボット」はここまで進化しました。しかし、ロボットにかける思いは今なおエスベンを駆り立てます。
2015年に米Teradyne社がUniversal Robotsを買収した際、エスベンはリタイアして安泰に暮らすこともできました。しかし、彼はUniversal Robotsの研究開発チームリーダーとして留まることを選び、その後チームの規模は買収時の倍にまでなりました。
エスベンは、引き続き新製品や新機能の開発をリードしています。その功績に対し多数の賞が授与され、保有する特許は30件以上になりました。こうした業績により、Universal Robotsはコボット市場で他の追随を許さないグローバルリーダーとなり、50〜100%の年間成長率を維持しながら、全世界の協働ロボット市場シェアの58%を占めるに至っています。
私たちはエスベンの切り開いた道を歩み、企業、従業員、そして消費者のイノベーションに貢献してゆくことを楽しみにしています。
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