全世界で約5万台の協働ロボットを販売してきたユニバーサルロボット。15年前は自動化分野に新しい切り口で挑む革新的なベンチャー企業だったURも、大きく変化しました。ここでは、2020年末に退職した前社長のJürgen von Hollen氏が、采配を振るった4年間を振り返ります。マーケットのdisrupter (新たなテクノロジーの活用により、既存のビジネスモデルを破壊する者)として直面した課題や、顧客の課題解決を重視する企業へと変化をとげた経緯、知見やデータを活用して行う継続的な改善まで、テーマは多岐にわたりました。
Q: URの15年の歴史を振り返ったとき、最も印象深いことは何ですか?
A:創業者の考えた方向性は正しかったし、現在も正しい道筋にいる、と思えることです。私のプレゼンテーションではいつも、”Empowering People 人々に自立する力を与える”という我々のビジョンを語ることから始めます。ロボットメーカーのビジョンにしては少し変わっているかもしれません。でも私たちは15年前に、使いやすくて協働的な新しい自動化技術を活用すれば、人々に自立する力を与えることができ、素晴らしいことを成し遂げる一助になれるという潜在的な可能性に気づいていたのです。そのビジョンは今も変わりません。
Q:市場も顧客の期待も変化してきましたが、そのようなビジョンをどう守ってきたのですか?
A: 協働ロボットのマーケットは近年どんどん変わってきていますが、それでもビジョンや重視するものを守ってこられたと思います。破壊者で先発企業なら、競争がないから簡単に成功するだろうと考える人は多いけれど、実際はその逆です。まったく新しい市場を作るためには、新しいグローバル販売網、新しい開発者ネットワーク、そして究極的にまったく新しいビジネスモデルの策定など多くの努力が必要でした。関心を高めたり、基準となるものを変えたり、顧客の考え方や期待を書き換えたりと。顧客は従来型ロボットのエクスペリエンスに影響されていましたから。
新しい企業が市場に参入してくることは良いことだと思っています。まず自分たちの方向性が正しいという証明になるし、市場内で関心がさらに高まって潜在的な顧客層が広がります。顧客はふつう、サプライチェーンや生産が単一のソースに頼る状態になるのは、リスクが増えるので好ましく思いません。私たちはまったく新しい分野を開拓していたので、大手企業の多くは何年も様子見していたのです。私たちの技術を評価してはいたけれど、全面的に導入するのは躊躇していました。でも市場全体が大きくなるにつれ、URの規模は急速に拡大しました。顧客に選択肢ができ、それによって技術がさらに受け入れられるようになったからです。
ですが生産工程に先進的なアプリケーションが導入されるなか、品質に対する顧客の期待も高くなってきました。市場が成熟すれば自然にそうなりますし、それに伴って私たちも技術やビジネスモデル全体を、細かく調整し続けなければなりません。この過程には終わりがありません。用途も状況も環境も変わり続けるのですから。今後はチャネルパートナやエコシステムパートナと緊密に連携し、エンドユーザにさらに近づいていく必要があるでしょう。
URのロボット開発は、設置拠点から得られる圧倒的な量のデータに基づいて設計することからスタートします。URの理念「信頼性と品質が最優先」が協働ロボット生産のあらゆる過程で生きている様子をご覧ください。
Q:URの重点は時を経てどう変わってきましたか?
A: 2016年に私が就任した当時、URはチャネルパートナに大きく依存した状態でした。実際にURロボットを使っている顧客の顔がほとんど見えませんでした。非常に限られたデータをもとに急成長していたのです。
それ以降は、チャネルパートナとエンドユーザの両方をより深く理解してサポートできるよう、システムとプロセスの開発に注力してきました。チャネルパートナとは今もとても緊密に連携しています。例えばエンドユーザやチャネルパートナはmyURというシステムで、所有するURロボットを登録・管理できます。同時に私たちも必要な情報が得られて、ユーザーや販売店の成功を後押しできるのです。
データを活用したこのアプローチだと、社内資源をより効果的に効率よく使えます。用途を理解し顧客が協働ロボットで何をしているかを把握することで、より的確なサポートが可能になります。
Q: URの社長に就任される直前にテラダイン社の傘下に入りましたが、これはその後のURにどのような影響を与えたのでしょうか?
A: 2015年にテラダイン傘下に入ったことで、3つの側面で事業が改善されました。データ活用のカルチャー、サプライチェーンの競争力強化、戦略的視点です。
私たちの事業にテラダインが持ち込んだ、データを活用した意思決定のカルチャーは事業を理解する力を伸ばしてくれて、顧客のサポートに必要となる決定が効果的にできるようになりました。ここ数年で、事業に対するビジビリティが膨大に獲得できました。これからも市場についての知識を積み上げ続けることが非常に重要です。正しい指標を活用し、データを使って迅速にいい判断を下すことが成功の鍵になるでしょう。
テラダインが最初にURに行った支援の一つがサプライチェーンに関するものでした。一部のサプライヤが原因で成長が伸びず苦心していたのですが、テラダインには素晴らしいサプライチェーンチームがあって、すぐに私たちを助けてくれました。新しい、より力のあるサプライヤを確保でき、部材調達コストを下げることができました。サプライヤを選ぶとき鍵になったのは品質で、すべての部材が求める仕様通りになっていることも重要でした。これが成長目標と品質目標達成のための必須条件でした。
テラダインはオートメーション市場を長期的な戦略的視点から見ています。それにより、私たちも成長を見据えて事業を計画し、将来売り上げをもたらすであろう製品やイノベーションロードマップに投資できるのです。テラダインはURにとって申し分のないパートナです。おかげで必要なとき必要なところでテラダインの経験や専門知識を参考にできるのです。
Q: URの戦略の方向性にはどんな影響がありましたか?
A: 私たちのようなテクノロジー企業がテクノロジーだけで差別化を図っていると考える人は多いですし、実際それで何年もうまくやってこられました。でも長い目で見ると、テクノロジーによる差別化だけだと持続可能ではないのです。何か別のものと組み合わせなければなりません。URでは複数の戦略的要素を組み合わせて持続可能な優位性を確立し、競合先の先を行くよう努めています。私たちの販売ネットワークUR+ エコシステム と URアカデミーはその点で不可欠な戦略要素です。UR+は、URの審査を経て認定を受けた開発者を集めたエコシステムで、ロボット周辺機器、ソフトウェア、アプリケーションキットがラインナップされています。顧客はウェブサイトで簡単に最適な製品を探せます。UR Academyは市場を文字通り改革しました。無料のオンライントレーニングを受ければ誰でもロボットプログラマになれて、顧客が協働ロボットを使って新しいことを成し遂げる機会を広げました。
私たちはかつて純粋な製造会社でしたが、今は顧客が協働ロボットをどう使っていて、どうすればその目的を支援できるか理解することに注力しています。なぜなら結局は、顧客は単に協働ロボットを買っているのではなく、目的を果たすためのソリューションを買っているからです。URの協働ロボットがどう使われているかによって、顧客のUR製品に対する見方が変わり、その場における協働ロボットのパフォーマンスも大きく変わってきます。品質は使い方によって大きく左右されますし、顧客はソリューション全体を見て成功かどうかを評価します。そのため透明性は不可欠で、パートナと緊密に連携して最高のカスタマーエクスペリエンスを実現することが重要なのです。
URは市場における強力なポジション、エコシステム、パートナネットワークを活かすことのできるユニークな立場にあります。これからも社内・社外の資源を活用し、戦略を実施し、学びと改善を続ける力が成功の鍵になるでしょう。
顧客が成長し、何か素晴らしいことを成し遂げるのを私たちは後押ししています。私はそれがワクワクするんです。