先が見えない時代、人間は物語を求めます。私たちは安心や励まし、共同体意識をそこに探します。この経験をしているのは自分だけではないこと、困難に立ち向かっている人が他にもいることを知るために。そこでこのブログでは数回にわたり、世界各国のメーカーが作業員の安全を守り事業を存続させるため、どのようにして新型コロナウィルスのパンデミック対策に取り組んでいるかを紹介します。私たちは、それぞれが互いを気遣い学び合いながら、安全な距離を保って協働を続けていけるよう願っています。
ユニバーサルロボット
オペレーションおよびサプライチェーン担当VP MARTIN KJÆRBO
このテーマの最初の記事として、メーカーとしてのユニバーサルロボット(UR)がコロナ禍においてどのように対処しているかを紹介します。今回のQ&AではURのオペレーションおよびサプライチェーン担当VPの MARTIN KJÆRBOが、URの対策と新たに浮上した課題について、また今回の危機が今後のURのあり方にどう影響するかを語ります。
以前と比較して、今はどのような生産方法をとっていますか?
1月上旬頃、中国で起きている事態に注目し始め、URが展開している他の国にウイルスが広がって影響が出た場合に備え準備を始めました。外出禁止令が多くの国で出されたときには、すぐに対応できる体制が整っていました。
今は、ロボットの製造に物理的に携わる人以外は全員在宅勤務をしています(注:2020年4月時点)。つまり総務、営業、経営、研究開発のチームは全員リモートワークで、オンラインミーティングで日々連絡を取り合っています。これはデンマーク本社も、世界各地にある27の拠点も同様です。
研究開発担当エンジニアの中には、自宅ガレージにラボを作っている人も多くいます。ロボットをエンジニアの自宅に送ってみたのですが、この方法はとてもうまく行きました。UR+で扱っているシミュレーションソフトウェアを使って協働できるからです。作業員たちがあっという間に適応する姿を見るのは素晴らしい経験でした。
URのエンジニアはロボットを自宅に持ち帰り、リモートで研究開発を続けている
サプライチェーンにはどんな影響がありましたか? 影響を抑えるために何をしましたか?
コロナウイルスの感染拡大で大きな影響が出たことは明らかです。いかに堅牢なサプライチェーンを築いているかが厳しく問われました。幸い複数の調達源を使ったサプライチェーンができていたので、中国が閉鎖したときもさほど打撃はなく、同じ部品を別の場所から調達できました。中国が活動を再開しヨーロッパの大半がまだ閉鎖中の今は、この複数調達源戦略が今度は逆向きに働いています。結果、事業に何ら支障はなく生産能力も維持できています。サプライチェーンを切り替えてここまで到達するには、確かに並外れた敏捷性と精査が必要でした。
今は、常に先を見越すよう努めています。原材料の発注を早めにするとか、自社のサプライヤだけでなく2次、3次、4次のサプライヤにもよく注意して、必ず納品できるか確認します。そのおかげでURロボットで設計変更になったモデルは1つもありません。
UR入社前、Martin KjærboはポンプメーカーGrundfos、風力タービンメーカーのVestasなど国際的に知られるデンマーク企業で物流/サプライチェーンおよびエンジニアリング部門のマネージャーを務めていました。
感染リスクを避けるため生産ラインを再編したり、作業員を守るため個人防護具を提供したりという必要はありましたか?
全ロボットの製造を行なっているデンマークの生産ラインでは1シフトから2シフトの操業に切り替えました。物理的に作業員を分散させるためです。推奨されているように人と人の間は必ず2メートル空けるようにし、原則としてあらゆる場所に手指消毒コーナーを設けました。生産ラインの作業員は全員手袋をしています。マスク着用はデンマークでは今のところ公式な推奨事項ではありませんが、もし必要になったら使えるようマスクも用意しています。
作業員を2シフトに拡散させることで、社員食堂に集まる人数も減ります。本社では生産スタッフに対し少人数ごとに休憩を取るよう要請しました。交差感染を防ぐため食事は全て前もって皿に盛り付け、使い捨てのスプーンやフォークを使い、ビュッフェ形式はやめました。休憩中もソーシャルディスタンスを忘れないよう、食堂の椅子は半分に減らしました。
生産方法に変更が必要になった場合、そのことを作業員にどう伝えていますか? 作業員はそれにどう対応していますか?
作業員からの反応は驚くほど良好です。明らかに、共にこの危機に向き合おうという意識が高まっています。とても助けになるし、会社にこの危機を乗り切ってほしいと全員が願っています。生産調整の多くは作業員から直接提案されたものです。この作業はこうすればもっと効率がよいとか、洗浄方法とか、規制に適合させるための新しい方法などを提案してくれました。
2シフトへの変更はとてもスムーズでした。日中子どもが家にいる作業員の多くは、夜間の勤務を歓迎しています。昼間、子どもと過ごせる時間が増えますからね。
以前と比べて自動化への依存度は増えましたか?
組み立てラインでは、URロボットがURロボットを組み立てています。今のような時はもちろん全ての工程を綿密に調べ、作業員を減らせるところはないか、ラインをもっと自動化して協働ロボットが代わりに作業できるところはないか探しています。この流れはパンデミックにより加速しています。お客様の中にも、協働ロボットが人員の再配置に役立つことを実感し始めて同じような取り組みをしているところは多いと思います。
これまでもURのお客様の多くは協働ロボットを生産ラインに導入することで作業員を分散させ、協働ロボットと一緒に作業するようにして労働力不足を解消してきました。その一例が上の写真のスペインのSHAD社。協働ロボットが作業員と連携してオートバイの付属品を組み立てます
確実に納期を守って製品をお客様に届けるにはどうしていますか?
国境が封鎖されないうちに最終製品の在庫をアメリカ、マレーシア、中国、オランダの倉庫に送りました。封鎖により貨物輸送に影響が出ると予想したからです。幸い危惧したほどにはなりませんでしたが、フライトが欠航になるなど物流面ではトラブルがかなり発生しています。最近では、大型注文をコペンハーゲン発の便で送ろうとしたところ欠航になり、ストックホルムまでトラックで運んでそこから空輸したことがありました。こうした問題に度々対処しなければなりませんが、今のところお客様へのロボット納品が遅れたことはありません。
デンマークの本社ではロボットを2つの倉庫に保管していて、一方の倉庫でコロナウイルス感染が起きたとしても、もう一方の倉庫から発送できるようになっています。幸い、実際に起きてはいませんが。
今回の危機によってあなたの会社はどのように変わっていくと思いますか?教訓を得たとしたらどんなことですか?
最大の教訓は、サプライチェーンの調達源複数化と、個々のサプライヤと密に連絡を取り合うことの重要性です。これは強調しきれないほどです。私たちは全ての部品について入手可能かを予測し、懸念のある部品を把握しておき、それに備えた予備計画を常に固めています。
事業の進め方は長期的にも変化していくと思いますか?
今回起きた変化はずっと続くと思います。良い面を見ると、今回のことで目が覚め製造の適応力が飛躍的に上がったし、労働環境が健康的かという点にも注意するようになりました。コロナが収束しても手指消毒コーナーは撤去しません。
残念ですが、握手したり親しくハグしたりといった、人同士の関係はもうこれまで通りにはならないでしょう。そういうコミュニケーションにいつ戻れるかわからないというのは悲しいことです。いつか、またできるようになってほしいと思います。